• 切れる喜び、育てる楽しみ。越前打刃物の職人に教わる、包丁の研ぎ方(WS情報有)

    • 2026.03.09

    毎日のお料理に欠かせない包丁。野菜やお肉を切るとき、食材がスッと切れなくて困ったことはありませんか?トマトが潰れたり、玉ねぎを切ると目が痛かったりという状態は、包丁のお手入れが必要なサインかもしれません。

    実は包丁は、正しいメンテナンスや修理を行えば、刃がなくなるまで数十年にわたって使い続けられる道具です。お手入れの方法を知ることで、毎日のお料理がもっと快適で楽しくなるはず。

    今回の特集では、福井県の伝統工芸品である越前打刃物の研ぎ師・戸谷祐次さんに、包丁の種類や構造といった基礎知識から、長く愛用するための研ぎ方・お手入れ方法まで詳しく教えていただきました。

    ※この特集記事の最後には、越前打刃物の研ぎ師・戸谷祐次さんをお招きしたワークショップのご案内も。ぜひ最後までお読みください。

     


    プロフィール

    戸谷 祐次さん|Sharpening four

    Sharpening four 代表。タケフナイフビレッジ協同組合専務理事。越前打刃物伝統工芸士。研ぎ師。 1976年 福井県越前市生まれ。2005年に家業の研ぎ師に転身。主に両刃包丁、各種刃物の研ぎ仕上げ、研ぎ直しなどを担う。 2015年からはフランスパリで研ぎ実演と講習を行い、シフォンケーキ型抜き用ナイフを共同開発、各方面で紹介される。 2018年、伝統工芸士となり、2020年4月、祖父、父の跡を継ぎ、新社名「Sharpening four」をスタートさせる。


    安価な包丁と高価な包丁(越前打刃物)はどう違う?

    包丁の研ぎ方に入る前に、100円ショップなどで手に入る安価な包丁と、福井県で700年以上の歴史を持ち、切れ味の良さで知られる一本数万円する越前打刃物の違いを簡単に比較していきます。

    比較項目 一般的な包丁 越前打刃物(鍛造包丁)
    製法・構造 ステンレス板を型抜きして作られることが多い。多くがステンレスの一体構造。 硬い鋼やステンレス鋼を軟らかい金属で挟む「三層構造(合わせ構造)」。
    素材の特性 錆びに強く、水気をあまり気にせず使える。手軽で日常のお手入れが簡単。 素材により水分の拭き取り等が必要だが、近年はステンレス系の鋼材(VG7など)も多い。
    切れ味 鋼材が軟らかい場合、研いでも切れ味が早く落ちやすい傾向。 刃先が薄く鋭いため、食材の細胞を壊さず繊維を綺麗に切れる(トマトや玉ねぎ等)。
    メンテナンス 定期的に研ぐか、切れ味が戻らなくなれば買い替えが必要になることも。 「メンテナンス前提の道具」。修理や研ぎ直しで性能が回復し、長く使い続けられる。
    刃持ち 比較的なだらかに摩耗する。 硬い鋼を用いているため、切れ味が持続しやすく刃持ちが良い。

     

    包丁選びにおいて、安価なステンレス包丁は「錆びにくさと手入れの手軽さ」が大きな魅力であり、日常使いにおいて非常に合理的な選択肢です。

     

    一方で、700年の歴史を誇る越前打刃物は、鋭い切れ味で食材の風味を守るだけでなく、「研ぎ直しながら一生モノとして育てる」という道具本来の醍醐味を教えてくれます。

     

    包丁が切れなくなる理由と、長持ちさせるために避けた方が良いこと

    なぜ包丁は切れなくなる?

    包丁は使っているうちに、刃先が丸くなったり刃が欠けたりと少しずつ摩耗していきます。また、まな板に強く当たることで刃先がわずかに曲がり、切れにくくなることも。


    毎日使う道具なので、使用による摩耗は避けられませんが、使い方によって切れ味の持ちや寿命は大きく変わります。ここでは、包丁を長持ちさせるためのポイントを紹介します。

    刃を長持ちさせる使い方と、日常のお手入れ方法

    日々の使い方

    1. 硬いものを無理に切らない:刃こぼれ防止

    2. 適切なまな板を使用:刃の劣化を防ぐ上で木製のまな板や、合成ゴムなどのソフトプラスチックの素材がおすすめ

    使用後のお手入れ(普段の基本のケア)

    1. 使用後すぐに洗う:食材の酸や塩分が錆びの原因に

    2. 柔らかいスポンジで洗う:刃を傷つけるため金属たわしはNG

    3. しっかり水分を拭き取る:錆び防止のため

    4. 食洗機は使用しない:高温で刃や柄が劣化する恐れあり

    5. 研ぎ直しは1〜2ヶ月に1回: 切れ味を保つ秘訣

    保管方法

    1. 包丁スタンドや収納ケースに収納:錆びや変色防止

    2. 刃を保護する:磁石式ナイフラックや包丁カバーを

    3. 湿気を避ける:錆びや木柄の劣化防止

    劣化を早めるNG行動

    ・食洗機・乾燥機の使用:温度の急激な変化はNG

    ・ねじる:横の衝撃は欠けの原因に

    ・水気:素材によっては錆びの原因に

    ・固いものを切る:冷凍の肉などを切る行為は、刃が欠ける原因に

    ・素材や構造に合わない研ぎ方:両刃包丁の片側だけを研ぐ など

    プロが教える「失敗しない」包丁研ぎ 

    次に、越前打刃物の研ぎ仕上げや研ぎ直しを行う戸谷祐次さんから、自宅でもできる研ぎの基本を教わります。

    「まず、自分がどんな包丁を使っているのかを知ることが大切です。包丁には、ひとつの金属で作られた全鋼(ぜんこう)の包丁と、硬い鋼を別の金属で挟んだ合わせ包丁があります」と戸谷さん。

    上:全鋼、中:合わせ包丁、下:全鋼

    それでは、実際に研いでみましょう。

     

    砥石での研ぎ方

    準備物

    ・砥石:中砥(#600〜#1000程度)
    ・仕上げ砥(あれば:#3000以上)
    ・滑り止め(濡れふきんなど)
    ・水
    ・タオル

    砥石には粒子の細かさ(番手)によって荒砥(あらと)・中砥(なかと)・仕上げ砥(しあげと)があります。家庭用の包丁であれば、中砥が1つあればOK。仕上げ砥があると、よりなめらかで鋭い刃に仕上がります。


    1.準備

    使う前に砥石を水に浸します。15〜30分ほど浸せばOKです。研ぐ際に水がはねることがあるため、台にタオルや新聞紙を敷いておきましょう。濡らして固く絞ったふきんを敷き、その上に砥石をセットします。

    2.研ぎ

    包丁を砥石に対して斜め45度に置き、背を15度浮かせて研ぎます。

     

    刃を前に押し出すように動かします。前に押すときに力を入れ、引くときは軽く戻すイメージです。角度を保つことがポイント。切っ先→中央→根元と部位ごとに分け、包丁全体を均等に研ぎます。砥石から出る黒い泥(砥汁)は流さず、広げて使って問題ありません。

    両刃包丁の場合は、裏面も同様に研ぎます。左右の手を持ち替えても、包丁の向きを変えてもOK。

    3.かえり(バリ)を確認する

     

    かえり(バリ)とは、研いだ反対側の刃先にできるわずかなまくれのこと。反対側の刃先を指で軽く触り、引っかかりが感じられたら、刃が研げている証拠です。

    4.仕上げ研ぎ

    刃先をよりなめらかに整え、切れ味を高める工程です。中砥のみの場合は、砥石の泥を洗い流し、力を抜いて刃を立てずに砥石の上を軽くなでるように動かします。仕上げ砥石がある場合は、刃と手をしっかり洗ってから使用し、軽い力で刃先を整えます。

    5.小刃付け

     

    小刃付けは、仕上げ研ぎの後に刃先へわずかに角度(30度〜40度)をつけることで、刃持ちや耐久性を高める方法です。必須ではありませんが、硬い鋼材を使った包丁や、刃持ちを重視したい場合におすすめです。刃先をほんの少し立て、軽い力で砥石を数回なでましょう。

     

     

    最後にタオルや木片などで軽く拭き、残ったバリを取り除きます。バリが残っていると、食材を切るときに引っかかりを感じることがあります。

     

    研ぎが完了!スッと切れるようになりました。


    6.砥石の後片付け

     

    砥石は水で洗い、しっかり乾かしてから保管します。手荒れする場合があるので、研ぎ終わったら手もよく洗いましょう。

    シャープナーを使うのはOK?

     

    シャープナーでの研ぎももちろんOK。刃先だけを手軽に整えられるため、「今すぐ切りたい」というときの簡単なお手入れに向いています。

     

    ただし、繰り返し使うと刃先が鈍角になりやすく、切れ味が落ちることも。合わせ包丁の場合は鋼だけが減っていくため、鋼が出ているうちに使用し、定期的に砥石で研ぐか専門の研ぎに出すのがおすすめです。

    買い替えるのではなく、手入れしながら道具を育てる

     

    研ぎ師の戸谷祐次さんに、包丁を手入れしながら長く使うことの魅力について伺いました。


    「包丁をお手入れすると、刃がスッと入り、食材の美味しさを損なわずに調理できるので、自然と料理のモチベーションが上がります。伝統工芸品ではありますが、日常を支える暮らしの道具として使っていただきたいですね。


    包丁は育てる道具です。使いながら研ぎ直したり、柄を交換したりすることで愛着が湧き、長く付き合っていけます。大切なのは、研ぐこと自体が目的ではなく、その包丁で料理をして、家族や自分の時間が豊かになること。道具はあくまで使う人が主役なんです。

     

     

    もちろん安い包丁でも構いません。100円の包丁でも、その人が『使いやすい』と感じれば、それは良い道具です。自分で選び、手入れをしながら使うことが、暮らしの豊かさにつながるのだと思います」


    特別な包丁ではなく、自分の手に馴染む使いやすい包丁を育てる大切さ。肩肘張らない一本を大事に育てて、道具への愛着を循環させていければ、何気ない日々の料理時間を楽しむことができるかもしれません。

    戸谷さんによる包丁研ぎワークショップを開催します。(3/29日@SAVA!STORE本店)

    微妙な角度や力加減は、一度プロに手を添えて教えてもらうだけで劇的に上達します。

    「切れ味の感じ方は人それぞれで、決まった正解があるわけではありません。スパルタな指導ではなく、それぞれのペースに合わせて研ぐことをサポートさせていただきます」と戸谷さん。

     

    いつも使っている馴染みの包丁を一本持参するだけで、研ぎ方のコツやご家庭でできるお手入れ方法をプロから直接学べる貴重な機会です。

    切れ味のよい包丁で料理をする心地よさや、道具を手入れしながら長く使う楽しさを、ワークショップでぜひ体験してみてください。

    詳細・お申し込みはPeatixよりご確認ください。

     

    [Peatixで詳細を見る]

     


    番外編:SAVA!STOREおすすめの包丁

    研ぎを覚えたら、研ぎがいのある包丁を使ってみませんか?SAVA!STOREで取り扱っている包丁を紹介します。愛着生まれる一本に出会えますように。

    ■ 癶(HATSU) 三徳包丁

    スタンダードな三徳包丁。一本あるとひとまず安心。結婚祝いなどのギフトにも選ばれています。


    ■ 癶 (HATSU)巴刃(ともえは)

    三徳包丁とペティナイフのいいとこ取りをした、現代のキッチンに最適なコンパクト包丁。小回りがきき、サブ包丁としても、一人暮らしのメイン包丁としても優秀。